はっきり言います。
"イギリスのライブハウスは「基本無料」"というツイートはダウトでした。
「大量にRTされてるから、その内容が真実」
だと思ったら、それは大きな間違いですよ!!
こんばんは。
恭平 a.k.a こども社長( @kyoopees )です。
京都のライブハウスGROWLYを経営しています。
系列店に音楽スタジオ、飲食店等もあります。
先週話題になったこちらのツイート。
外国人目線から、日本のミュージックシーンに関しての意見です、読んでもらうと嬉しいです
— Joshua Lassman (@joshua_lassman) June 13, 2018
賛成したらRTしてください
思ってなかったら、違う意見あるなら会話して欲しい pic.twitter.com/Pc48JnP5d7
日本に7年住んだイギリス出身のJoshua氏が書いたツイートが、2万RTを超え話題になりました。
内容をかいつまんで書くと、
- 日本のライブハウスシステム(ノルマ等)には一定の理解を示しつつも、イギリスのライブは基本無料、ドリンク代で利益を出してるから、それを倣おう
- 具体的には平日のライブ入場料1000円、19時前入場するとドリンク代のみで入れる、等を提案
という感じです。
(詳しくはツイートの添付画像をお読み下さい。)
海外と日本のライブハウスの違いは、昔から議論されて来ました。
僕も一度アメリカでプレイしたことがあり、その時に大きな感銘を受けた事は事実です。
しかし、アメリカのやり方をそのまま日本でできるかというと、難しい事が多いです。
このJoshua氏のツイートに対しては、色んな角度から検証・論争が出来ると思います。
当初、「人口、税制、法律、宗教、人間性、景気、音楽に対する捉え方」などの角度からの議論を記事にしようとしました。
しかし、まずは「イギリスのライブハウスが基本無料なのは本当なのか」
と疑問に思い調べてみることしたんですが、、、
それは嘘だということが発覚しました。
Joshua氏のツイートを見て「イギリスも無料なら日本も無料にしろ!」と思った人、
「ライブハウス経営者はもっと安い料金で音楽楽しめる環境作れよ!」と思った人にはもちろんのこと、
海外と日本のライブハウスの仕組みの違いや
ライブハウスの入場料に疑問を持っている人、
そしてライブハウスやバンドに携わる全ての人に読んで欲しい記事です。
レディゴォ!
「イギリスのライブハウスは基本無料」は嘘だった!?
Joshua氏のツイートの中に、
「イギリスの場合にはライブは基本無料、ドリンクで売上でる形(イギリス人はバカみたいに飲むから)」(原文まま)
とありました。
確かに僕も、何となく海外のライブハウスはチケット代無料なのかなという先入観がありまして、このツイートを見た時には何も思わなかったのです。
イギリスのライブハウスが本当に基本無料なら、やり方を学ぼうと思って調べ始めました。
しかし、調べていくと、「基本無料」という事実は無いという事がわかって来ました。
イギリスのライブハウスの入場料を調べました
イギリスではライブハウスの事をベニュー(Venue)と呼ぶそうです。
「ライブハウス」は和製英語だと聞きますよね。
イギリスにもライブハウス(ベニュー)がたくさんある様です。
一口にライブハウスと言っても何千人も収容出来る場所もあるので、
なるべく比較の為に私が経営するライブハウスGROWLYに近いキャパ(収容可能人数)300人前後で探してみます。
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THE CAMDEN ASSEMBLY
まずはTHE CAMDEN ASSEMBLY。
ノースロンドンのCamden Townにある収容人数420人のベニューです。
スケジュールを見ると、オールナイトでのクラブイベントが多く、夕方にもイベントをやってる感じです。
(オールナイトイベントの終了時間が全て2:00か3:00と表記されています。法律的な何かあるのかなぁ。)
夕方のイベントも大半がクラブ(DJ)イベントの様で、バンドが出演するイベントは少ないようです。
その入場料金は、900円〜1200円程度。(1ポンド=150円で計算)
安い!!
けど、基本無料ではありませんでした。
THE CAMDEN ASSEMBLYは、日本で言う「クラブ」に近いイメージです。
京都にも近い雰囲気のクラブがあります。
クラブ営業と平行してバンドイベントを行う事によって収益を確保し、
バンドイベントのチケット代を下げているのかも知れません。
実際Joshua氏が指摘している様に、日本のクラブでも場所やイベント内容によっては入場無料だったり、
女性入場無料だったり◯時までに入場すれば無料だったりと、バンドイベントと比較すると、
売上の比重は「チャージ料金よりドリンク代」を重視しています。
そして一般的に、クラブ(DJ)イベントよりも
バンドイベントの方が機材費や人件費等、運営費が高い傾向にあります。
(同じキャパ、同じ時間営業すると仮定して比較した場合)
私もクラブには何度か遊びにいった事もありますし、以前店長を務めていたWHOOPEE'Sもクラブイベントとバンドイベントを平行して開催していたので、感覚は何となくわかります。
クラブイベントの方が、圧倒的にお酒が売れます!!
一概には言えないかも知れませんが、これは日本も海外も同じではないかな?と思います。
そりゃ日本人は海外に比べてお酒をガバガバ飲める体質ではないですが、それでもクラブの方がお酒は売れます。
THE CAMDEN ASSEMBLYのやり方は上手いと思います。
しかし、日本のライブハウスがこのやり方を取り入れる事ができるかと言ったら、難しい場所も多いです。
法律・ブッキング・近隣住民への対策等、様々な障壁があると思います。
それらの問題さえクリアできれば、クラブイベントも行うライブハウスだと、チャージを安くする事は可能かも知れません。
(基本無料にするのは難しいと思われます。)
100 CLUB
次に調べたのは100 CLUB。
オックスフォード・ストリートにある老舗ライブハウスで、収容人数は350人です。
ここは僕も名前を聞いた事あるくらい有名なライブハウスで、UKロックを代表するローリングストーンズ、セックスピストルズ、オアシスなど、名だたるバンドがプレイした事のあるライブハウスです。
ここのスケジュールを見ると、ほとんどのイベントがバンドの出演するイベントとなっています。
雰囲気的には、私が京都で経営するGROWLYと近い営業形態でしょうか。
2018年6月〜7月のスケジュールをチェックしたのですが、、、
残念ながら、入場無料のイベントは1つもありませんでした。
そのチケット代は、安くて750円から高くて5000円まであります。
平均2000円くらいの印象ですが、「イベントによって違う」という感じです。
100 CLUBは"日本のライブハウス"に近い感覚を覚えました。
きっちりチケット代を取るイベントばかりです。
中には何らかの意図で無料のイベントもあるかも知れませんが、
100 CLUBも基本無料ではありませんでした。
もう一つ興味深いのが、多くのイベントに「adv」料金と「otd」料金が表記されてました。
「adv」はadvanceの略で、「前売り料金」を意味し、
「otd」はon the dayの略で「当日料金」を意味します。
前売り料金、当日料金の概念はイギリスのライブハウスにもありました。
(関連記事はこの記事の最後に貼っておきます。)
そして100 CLUBのスケジュールには、advの隣に「+bf」の表記が全てのイベントに付いています。
日本のライブハウスと同じ1ドリンク制度なのかな?
と思って、イギリス人(知り合いの知り合い)に聞いてみました。
+bfはbooking feeの略で、"予約手数料"に当たるとの事でした。
£17.50 adv + bf / £20.00 otd
という感じで表記されてるので、
前売り 2,625円 + 予約手数料 / 当日 3,000円
ということになりますね。
予約手数料がいくらくらいかわかりませんが、
せっかく安くなったのに手数料が追加されるならあんまりお得感はありませんね。笑
THE CAVERN CLUB
最後に調べたのはTHE CAVERN CLUB。
リバプールに位置し、ビートルズを輩出したとしても有名なベニューです。
ビートルズツアーが組まれるなど、ビートルズファンだけでなく音楽ファンの聖地となっています。
このTHE CAVERN CLUBには「CAVERN CLUB」「CAVERN LIVE LOUNGE」「CAVERN PUB」の3つのベニューがあります。
(ごめんなさい、それぞれのキャパシティは見つけられませんでした、、。情報求む。)
イメージ的には、
CAVERN CLUB→生演奏が聴けるカフェ
CAVERN LIVE LOUNGE→ライブハウス
CAVERN PUB→ライブも出来るバー
という感じみたいです。
(ややこしいかもしれませんが、「THE」がつくTHE CAVERN CLUBは、この3つのベニューの総称とします。)
そしてついに見つけました!
CAVERN CLUBは平日入場無料、CAVERN PUBは土日も入場無料です!
Joshua氏が言及してたのはTHE CAVERN CLUBの事だったのかも知れませんね。
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THE CAVERN CLUBがなぜ入場無料で営業出来るのか
僕が今回調べたイギリスのライブハウスで唯一、
「基本無料」を実現していたTHE CAVERN CLUBの仕組みを考察してみます。
CAVERN CLUBの面白い仕組み
CAVERN CLUBのスケジュールをじっくり見て、面白い特徴に気付きました。
Joshua氏が言及してた「19時前に入場するとドリンク代のみ」というアイデアは、
THE CAVERN CLUBから来ていたのかも知れません。
月曜日から水曜日までは入場無料
まず、平日の月曜日から水曜日までは入場無料です。
スタート時間はお昼前の11:15!早い!笑
そこから持ち時間45分のアーティストが2組、
持ち時間1時間45分のアーティストが4組の計6組が夜の23:00くらいまで行われます。
Tuesday Live Music Schedule - Cavern Club
このタイムテーブルですから、いわゆるリハーサルはもちろん無いと思われます。
現実的に不可能だと思います。
そして、この日に出演する全アーティストが、ギターと歌を一人で行う弾き語り(だと思われます)。
照明や音響も簡易なもので大丈夫でしょう。
どちらかと言うと、カフェやレストランで生演奏が行われているという感覚で、日本で言う「ライブハウス」とは違う営業形態という印象です。
(もちろん、日本でもそういうスタイルで生演奏が聴けるカフェはありますよね。)
ですので、CAVERN CLUBを模倣して日本のライブハウスも無料にするのは難しいかなと思います。
木曜日は夕方からチャージがかかる
木曜日も同じくお昼前の11:15スタート、そこから夕方の19:00まで、月〜水と同じくチャージ無料のイベントで4組ほど出演します。
しかし木曜日は19:00からチャージ料金がかかります。
4ポンドなので日本円で約600円です。
安いですね。
面白いのがここからです。
19:00から3つのイベントが開催されるのですが、「1イベント600円」なのです!
(1イベントで1組の出演者の場合が多いですが、複数出るイベントもあります。)
なので、3つのイベントを見ようと思ったら1800円。
日本のライブハウスのチャージとさほど変わらない料金設定ですね。
ちなみに、最後の組が演奏始まるのが22:30という事ですから、終わりは24:00くらいですかね。
随分夜中までやってるんですね〜。
Made In Liverpool - Thursday Beatles Night - Cavern Club
1イベント600円というシステムは面白いなと思いました。
ただ、1組ずつ課金制度になると、1組だけ見たい人にとっては安く済ませる事が出来る反面、「ついでに見てみようかな」という気持ちを阻害するハードルにもなってしまいます。
出演者にとっても全員ハッピーなシステムでは無い場合があります。
(前の組が演奏してる時にはお客さんいっぱいいたのに、自分が演奏しようとしたらみんな帰ってる、、、!という悲劇も生まれやすい。)
週末は基本的に有料。しかしお得なパック料金がございます
金曜日は木曜日と似たスタイルですが、昼前の11:15からチャージ料金がかかります。(約400円)
土日も金曜と同じ感じですが、週末はイベントごとの料金とは別に
「All Day / All Night Ticket」というチケットが設定されています。
料金は約1000円で、昼の11:15から夜中の2:00までいれるようです。
3イベント以上見るならこちらのチケットがお得ですね。
Web Siteを見ただけですが、CAVERN CLUBはなんとなく「ライブハウス」というよりも「生演奏が聴けるカフェ」の印象でした。
ライブハウスとカフェでは、日本でも明確な線引きがあると思います。
実際に行って確かめてみたいなと思っています。(いつの日か)
CAVERN PUBはあくまでバー
THE CAVERN CLUBの3つのベニューの1つ、CAVERN PUBは、土日も含めて全てのイベントがチャージフリーのようです。
https://www.cavernclub.org/venue/cavern-pub/
ただ、「PUB」と名がつくくらいですから、飲食の売上がメインになるのだと推測します。
Joshua氏が言及していた「イギリス人はバカみたいに飲むから」(ツイートから引用)ということで、売上を上げているのかも知れません。
CAVERN PUBの音響・照明設備及びスタッフに関しては、実際行った事が無いのでわかりませんが、どういう仕組みになってるんでしょうね。
音響・照明設備やスタッフも、いわゆる「日本のライブハウス」と同じ様に完備されていて、それを飲食の売上で上げてるとしたら、それはすごい事です。
CAVERN LIVE LOUNGEも含めて3つのベニューで売上を上げる仕組み
THE CAVERN CLUBの3つのベニューの残りの1つ、CAVERN LIVE LOUNGEは、ほぼ週末のみ(木〜日)の営業で、そのほぼ全てがチャージ有料です。
どちらかというと、日本のライブハウスに近いイメージなのかなと思います。
https://www.cavernclub.org/venue/cavern-live-lounge/
イベントによって料金が違い、投げ銭制からチケット代3000円の幅があります。
CAVERN CLUBと同じく一日に複数イベント開催される日も多いです。
メインイベントの前のイベントが投げ銭制であることが多く、投げ銭制のイベントしか無い日はほぼありません。
この3つのベニューを調べてみて、THE CAVERN CLUBは
ビートルズの聖地と化したその知名度を活かし、
3つの施設で総合的に利益を出している
そういう仕組みを確立しているんだなと感じました。
「PUBでお酒を飲もうと思って来たら、CAVERN CLUBで弾き語りやってるし一組だけ見てみよう」
とか、
「好きなバンドがCAVERN LIVE LOUNGEに来るから見に来たけど、帰る前にPUBで飲んでから帰ろう」
という感じです。
この仕組みは、経営者として素晴らしいなと感じました。
こういう仕組みが日本でも作ることができれば、Joshua氏の言う「基本無料」に近付く事は出来るかも知れません。
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まとめ
今回は本来、イギリスと日本の違いを「人口、税制、法律、宗教、人間性、景気、音楽に対する捉え方」などさまざまな角度から検証しようと書き始めました。
その前にイギリスのライブハウスを調べたら「全然無料じゃねーじゃん」ということがわかり、記事にさせて頂きました。
「海外のライブハウスはふらっと飲みに行くバー的な場所」という先入観がありましたが、
チケット代をちゃんと取るいわゆる「日本的なライブハウス」もしっかり存在してる事がわかりました。
決して、Joshua氏の意見を批判するものではありません。
しかし、「外国が無料だから日本も安くしろ!」という理屈は乱暴だなと思います。
無料な所もあるし、無料じゃない所もある。
無料な所は無料にできる理由がある、という事です。
現に、日本でもCAVERN CLUB的なところはありますよね。
(逆にそういう場所のデメリットもあると私は考えます。)
むしろ、日本と同じく結構チケット代取ってるところ多いなという印象でした。
「イギリスのライブハウスは基本無料」というのは嘘だということです。
CAVERN CLUBのように、イギリスのライブハウスも入場無料なところは一部ありました。
しかし、決して全てが無料では無いし、「ライブハウス」というくくりで語るのも危険だと思いました。
(今回調べた所がたまたま有料で、それ以外が全部無料な可能性もあります。そういうご指摘ありましたらご連絡下さい。)
私は、音楽に裏方として携わる身として、「なんでもかんでも無料!」という風潮はとても危険だと思っています。
むしろ、
アーティストとライブハウスを守っていくために、チケット代は有料であるべき
だと思っています。
この自論は、今回の調査では1ミリも揺らぎませんでした。
もちろん、もっと音楽を楽しめる仕組み、知らない音楽に出会う仕組みは構築していきたいと考えています。
ライブハウスに悪いイメージがあったり、実際ライブハウスに行って負の印象を受けてしまったのであれば、それは改善すべきです。
今回、Joshua氏のツイートをきっかけにイギリスのライブハウスの事を知れたし、
ライブハウスのチャージについて改めて考えるきっかけになったことを深く感謝しています。
(Joshua氏とは面識ありませんので、お会いしてお話し出来たらと思っております。)
またの機会に、違う角度で、日本と海外の比較記事を書けたらと思っています。
(取材という名目でイギリス行ける様になりたい)
関連記事です。
チケット代に前売り料金と当日料金があることについて。
日本だけの仕組みかなと思ってましたが、イギリスのライブハウスにもありましたね。
海外から日本に来た人が、気軽に日本の音楽・ライブハウスに触れて欲しいと思って作った制度です。
チケットの適正価格とは?安ければ安いほど良いって本当なのか?
音楽の聴き方の変化と同時に、ライブハウスも変化していく時期なのでしょうか。
続きはWebで。もしくは現場で。
(この記事書くのにかかった時間は約5時間です。)
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