音楽は所有する時代からアクセスする時代へ。
このまま時代は移り変わって行くのでしょうか。
わたくし恭平 a.k.a こども社長( @kyoopees )は、ライブハウスを経営しています。
ライブハウスは、特に私の経営するGROWLYには、数多くのインディーズバンド・アーティストが出演します。
"これから"の日本の音楽シーン、ライブハウスシーンを担うアーティストばかりです。
そんなアーティストと接する時に危惧すること。
それが、「CDが売れなくなって来ている今、音源をどう販売していくか」ということです。
今回は、ライブハウスの人間なりに、音楽の定額制配信サービスの未来について考えてみました。
音楽の定額制配信サービスとは
2018年現在、音楽の聴き方は多様化して来ました。
その中でも特に頭角を現して来ているのが、"定額制配信サービス"です。
代表的なものだけでも、Apple Music、AWA、LINE MUSIC、Spotify、Amazon Music Unlimited、レコチョクBest、KKBOX、Google Play Music、auうたパス、ドコモdヒッツ、、、とたくさんあります。
各サービスで多少の違いはありますが、共通するのは「毎月一定額を支払うことで、登録されている楽曲を再生出来るサービス」です。
一部ではストリーミング再生だけではなく、サービス加入中であればダウンロードしてオフラインでも聴けるサービスも存在します。
定額制配信サービスの他の呼び方
"サブスクリプション型配信サービス"や"定額制ストリーミングサービス"とも呼ばれます。
サブスクリプションとは、「製品やサービス等の一定期間の利用に対して代金を支払う方式」のことです。
音楽以外にも、Illustratorなどのソフトウェアやスマホのアプリなど、最近はこういう形式を取るものが多いですよね。
月額である場合が多いので、初期費用が低いことや、気に入らなければ契約を解除出来ることで利用するハードルを下げ、利用しやすくなっています。
ストリーミングとは、「インターネット上で動画や音声等のコンテンツをダウンロードしながら逐次再生する」ことです。
ダウンロードと再生を同時に行うことで、ダウンロードする待ち時間を減らす効率的なやり方ですね。
どちらの呼び方・形式も、10年前には想像もつかなかったものです。
それは、有形から無形への進化
音楽販売の歴史はレコードから始まり、カセット、CD、ダウンロード販売、定額制配信サービスと移り変わって来ました。
レコード、カセット、CDまでは有形(形があるもの)でした。
それに対して、ダウンロード販売、定額制配信サービスは無形(形の無いもの)です。
恐らく、レコードからカセット、カセットからCDへの進化の時も、もちろん寂しい想いをしたり抵抗した人達というのは少なくともいると思います。
(私は小学生で初めて買ったのがCDなので、その移り変わりは体験出来ていません。)
形が変わることに関してはなんとか適応出来たが、有形→無形となると、受け入れるのに抵抗がある人も多いと思います。
しかし、この大きな変換期に立ち会ってる私たちは、そのことを深く考える必要があると思っています。
定額制配信のメリット
各サービスによって違いはあると思いますが、定額制配信サービス共通で考えられるメリットを挙げます。
一定の代金でたくさんのアーティストの音楽が聴ける
一番のメリットであり、定額制配信の売りはこれです。
一定の代金を支払えば、登録してある楽曲を無制限で聴く事ができます。
その代金が"安い"かどうかは使う人次第ですが、多くの楽曲を聴けば聴くほど、単価は下がっていく仕組みです。
例えばApple Musicなら、個人向けプランが月額980円。
家族で利用出来るファミリープランが月額1480円です。
また、学生向けプランだと月額480円!
一定の料金で、いつでもどこでもどれだけでも、登録されている楽曲なら聴き放題!
購入で考えれば、所有していないCDアルバムを月に1枚でも聴けば元が取れる仕組みです。
レンタルだったら、旧作100円、新作200円くらいでしょうか。
"料金だけで"レンタルに対抗するのであれば、旧作アルバム10枚くらいで元が取れる計算ですね。(返し忘れて延滞料を払う必要も無し)
僕が高校生の時には、CDを月に1枚、しかも電車で片道一時間以上かけて買いに行っていましたので、それと比べると今の若い子たちは少ないお小遣いでも若いうちから音楽をたくさん聴けて羨ましいなぁと思います。
アクセスが簡単である
次に挙げられるメリットは、その楽曲を聴くにあたっての手間が少ないという点です。
CDであれば、まずCDというソフトフェアが必要で、
同時にコンポ等のCDを聴く為のハードウェアが必要です。
家用のコンポは持ち運び出来ないし、車用のコンポは車の中でしか聴けません。
それに比べて、定額制配信はiPhone等のスマートフォン1台あれば聴けます。
このご時世、スマホを持ってない人の方が少ないでしょう。
2017年3月のスマホの日本人使用率は77%という調査結果が出ています。
日本人の8割近くが持っているとすれば、それはもはやインフラとして成立します。
(インフラ・・・道路やインターネットや電気など、産業や社会生活の基盤となる設備のこと)
再生が簡単であると同時に、検索も簡単です。
気になったアーティストの楽曲を探すのもスマホ1台でできます。
CDを入れ替える手間もありませんし、聴いた事無いアルバムも一瞬で聴けます。
CDショップに行く時間も交通費も必要もありません。
CDレンタルショップに返却しに行く必要もありません。
飽きたり引っ越したりでリサイクルショップに売りに行く必要もありません。
"聴きたい曲を今すぐ聴く"という観点で言えば、(その楽曲が登録されていれば)とても簡単に聴く事ができます。
かさばらない
音楽を所有するという観点でもメリットはあります。
"モノ"として所有しないので、部屋のCD棚を用意する必要もありません。
レンタルしたCDをその後も聴く為には、CD-Rに焼くか、iTunesなどのメディアプレイヤーに取り込む必要があります。
そういった手間を全て省く事ができます。
聴く為のハードウェアも持ち運ぶ必要がなく、スマートフォン1台で十分です。
Web上に無限に広がるCD棚にアクセス出来る感覚です。
都市伝説的な余談
メリットとは関係無いかもしれませんが、Web上に無限に広がるCD棚にアクセス出来る感覚というフレーズを思いついたのと同時に、"アカシックレコード"が思い浮かびました。
アカシックレコードとは、すべての意識の集合体、宇宙が生まれた時からの全記憶のことです。
別名"宇宙図書館"とも呼ばれます。
これにアクセス(リーディングと言います)することで、宇宙の記憶を読み取るとともに、人類がなんのために生まれて来たか、どこへ向かって行くかを知るというオカルト的なものです。
定額制配信サービスは、過去の名曲はもちろんのこと、最新楽曲もいち早く登録されています。
もしかしたら、定額制配信サービスは人類がアカシックレコードに近付く為の第一歩なのかもしれません。(信じるか信じないかはあなた次第)
定額制配信のデメリット・問題点
見て来た様に、音楽の定額制配信サービスはとても便利な物です。
では定額制配信にはデメリットや問題点はないのか。
私は現状、以下の4点があると考えます。
アーティストにきっちりと対価が支払われるのか
Spotifyが公表しているデータによると、ストリーミング1再生あたり0.16円だそうです。
Spotifyは収益の70%を権利関係者に分配していることを公表しています。
この数字が多いか少ないかは意見が分かれる所だと思います。
僕がこの記事で一番主張したいのは、
「楽曲制作者の為に守るべきは、楽曲制作に対する評価の対価が正しく支払われる仕組みを維持すること」です。
正直に言うと、CDが無くなってしまうのは寂しいです。
CDという物へのこだわりも捨てるべきでは無いと思います。
しかしそれが時代の流れならば、抵抗するのはただの懐古主義に過ぎないのかも知れません。
音楽に限らず、あらゆる手段はその時代で変わるものだと思っています。
その代わり、楽曲制作者への還元の仕組みが確立する必要があると考えてます。
ここが確立できなければ、"これから"のアーティストが音源で利益を生み出していくのが難しくなっていきます。
そうなると、新しいアーティストの活動が難しくなり、良い音楽・新しい音楽が生まれる可能性が減ってしまいます。
ライブハウス経営者として音楽に携わる身として、見過ごす訳にはいきません。
今のところ、私たち現場の人間までその還元の仕組みの情報が下りて来ていないのが現状です。
その仕組みをなるべく早く把握し、"これから"のアーティストにも適用していけるのかを知るべきだと考えています。
(要は、よくわからんから早く知りたいってこと。)
少ない音源を長く聴く人にとっては損になる場合がある
1ヶ月でたくさんのCDを聴く人にとってはメリットであると書きましたが、
逆に"1枚のCDを長く聴く人"にとっては、定額制配信サービスに加入するよりはCD単体で購入した方がオトクになる場合があります。
1つのアーティストを愛し、1枚のアルバムを愛することも素晴らしいことです。
しかしその場合も、CDを聴くハードウェアの購入代金やどこでも手軽に聴けないというデメリットを考慮すれば、さしてオトクにはならない可能性が高いです。
日本のアーティストの参加者がまだ少ない
海外のアーティストは、定額制配信サービスにほぼ全員が参加しています。
2015年のアメリカのビルボードチャートTOP50の楽曲のうち、Apple Musicではなんと参加率100%。
全曲がApple Musicで聴ける状態です。
2015年時点ではSpotifyではテイラー・スウィフトのみ反対して参加率88%でしたが、2017年に和解し、Spotifyでも参加率はほぼ100%となりました。
(参加者の全員が"賛同"しているかは不明です。しぶしぶ参加してるアーティストもいるかもしれません。)
対して、邦楽アーティストはどうでしょうか。
2015年のオリコンウィークリーシングルTOP50の楽曲でみると、定額制配信サービスの中で一番参加率が高かったのは、auうたパスで52%、次いでドコモdヒッツの44%でした。
海外アーティスト参加率100%だったApple Musicに至っては参加率14%となっています。
邦楽アーティストの定額制配信サービス参加者は半分以下となっています。
※あくまで"2015年のランキングTOP50の参加率"であり、"2018年現在の全アーティストの参加率"のデータではありません。
肌感覚として邦楽の参加率は未だ低い様に思われます。
特に、オリコンランキングに登場しない様なインディーズアーティストの参加率は著しく低いです。
(これは欧米ではどうなんでしょう。)
よって、邦楽のアーティストを多く聴きたい人(特にインディーズアーティストを多く聴きたい人)にとっては、今のところあまりいいサービスとは言えないかもしれません。
音楽の価値が下がる
ある日本の音楽評論家は、
「利便性は高まるが、音楽の価値は下がる。購入のプロセスがなく、誰かに(アプリに)勧められるまま聴き、誰が歌っているのかを意識しなくなり、アーティストの存在が希薄になる」
と警鐘を鳴らしています。
これはかなり核心を突いている意見であると思います。
販売単価が下がることはそのまま価値の低下に繋がると言えるでしょう。
個人的に付け加えるなら、CDとして所有しないことによって、"モノ"としての音楽という観点でも、価値は下がっています。
愛情・愛着という点でも薄くなるでしょう。
確かに僕も、CDを買って、穴があくほど歌詞カードを隅々まで見ながら聴いていた頃に比べると、アルバムに収録されてる曲名がわからないということも経験ありますし、CD1枚に対しての愛着は薄くなっているかもしれません。
まとめ
私は音楽評論家でもなければ、定額制配信サービスの事業者でもありません。
この仕組みを変えることもできなければ、流れを止めることは難しいかもしれません。
しかし、ライブハウス経営者として、若いアーティストと数多く接する身としては、対策を講じなければいけません。
個人的な見解では、定額制配信サービスについては"賛成"です。
というより、"賛成せざるを得ない"という立場です。
世界の潮流に抗うより、その潮流を乗りこなす方法を考える方が建設的ではないでしょうか。
私はこの業界に携わってたった10年ですが、
ライブハウスに足を運ぶ人は、減ってる様には全く感じません。
野外フェスも、集客が減ってる様にも感じません。
音楽が好きな人もたくさんいる様に思えます。
しかし、CDの売上は10年前と比べて確実に減った様に感じます。
確かに、CDが売れなくなっていることは寂しいことです。
しかし、そのことを嘆くより、定額制配信サービスをうまく利用して、アーティストがちゃんと食べて行ける世の中を作っていくことが必要だと考えています。
それは、音楽の未来のために。
▼好きな物にはお金を使おうという記事。
▼音楽だけでなく、漫画や書籍も同じ様な岐路に立たされています。
▼CDを買いに行くのに片道一時間以上かかる僕の地元が田舎過ぎる記事。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!